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「‥‥あのさ、スーパーマリオってあるじゃん?」「はあ?」 保険医の口を突いて出たのは、あまりにも突拍子のない言葉だった。 スーパーマリオ。僕の年代で知らない者はいないと思う。とりあえずは。「もちろん知ってますよ。ゲームでしょう?」「あれってさ、どんな内容だった?」「‥‥敵を倒して、キノコ食べて、土管に入って‥‥」「それがどうかしたんですか?」「あの男は自分のしてることを‥‥どう思ってたのかねぇ」「どういう意味ですか?」 大森となえは酷く緩慢な動作で煙草を揉み消した。 改めて顔を上げた彼女の顔は、思いのほか真剣なものだった。「狂った話だよねえ‥‥」「‥‥?」「幻覚キノコを食べて、身体が大きくなる‥‥」「はあ?」「花を取ったら火が吹けて‥‥」「‥‥それがどうしたんですか?」「大麻のさ、一番キくところって知ってる?」「は? 知りません」「トップっつってね、要するに花なんだけど」「はあ‥‥」「ある男が拾ったキノコを食べて、自分の身体が大きくなった気がした」「はあ‥‥」「花を食べたら火が吹けて、自分以外の動く者は全部敵…」 言わんとしていることはわかってきた。 バカなことを。僕は笑った。「マリオはジャンキーだって言うんですか? でも、そんな。くだらない。もともと御伽話みたいなものじゃないですか」「‥‥で、さ。彼の目的ってなんだったっけ?」「お姫様を救うこと‥‥でしょ?」「そうなんだよね‥‥」「騎士道精神ってやつです。御伽話の基本です。立派なことじゃないですか」 大森となえは無言で煙草に手を伸ばすと、一本くわえて火を点けた。 溜め息を吐くように吐き出した煙が‥‥僕の視界を白に染めた。「お姫様なんて、本当にいるのかねえ‥‥」「あははっ、女のコは白馬の騎上、男のコはお姫様。お互いそんなこと言う歳でもないじゃないですか」「いたとしても、本当に『怪物』に囚われているのかどうなのか‥‥」 となえはそれきり、ムッツリと黙り込んでしまった。 歳の話をしたのが気に障ったのだろうか。だとしたら大人気ないことだ。 ともあれ、こんなくだらない話にこれ以上付き合うこともないだろう。 マリオ? マリオがどうしたっていうんだ? だいたい…。 ああ、そうか‥‥。
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「‥‥あのさ、スーパーマリオってあるじゃん?」
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保険医の口を突いて出たのは、あまりにも突拍子のない言葉だった。
スーパーマリオ。僕の年代で知らない者はいないと思う。とりあえずは。
「もちろん知ってますよ。ゲームでしょう?」
「あれってさ、どんな内容だった?」
「‥‥敵を倒して、キノコ食べて、土管に入って‥‥」
「それがどうかしたんですか?」
「あの男は自分のしてることを‥‥どう思ってたのかねぇ」
「どういう意味ですか?」
大森となえは酷く緩慢な動作で煙草を揉み消した。
改めて顔を上げた彼女の顔は、思いのほか真剣なものだった。
「狂った話だよねえ‥‥」
「‥‥?」
「幻覚キノコを食べて、身体が大きくなる‥‥」
「はあ?」
「花を取ったら火が吹けて‥‥」
「‥‥それがどうしたんですか?」
「大麻のさ、一番キくところって知ってる?」
「は? 知りません」
「トップっつってね、要するに花なんだけど」
「はあ‥‥」
「ある男が拾ったキノコを食べて、自分の身体が大きくなった気がした」
「はあ‥‥」
「花を食べたら火が吹けて、自分以外の動く者は全部敵…」
言わんとしていることはわかってきた。
バカなことを。僕は笑った。
「マリオはジャンキーだって言うんですか? でも、そんな。くだらない。もともと御伽話みたいなものじゃないですか」
「‥‥で、さ。彼の目的ってなんだったっけ?」
「お姫様を救うこと‥‥でしょ?」
「そうなんだよね‥‥」
「騎士道精神ってやつです。御伽話の基本です。立派なことじゃないですか」
大森となえは無言で煙草に手を伸ばすと、一本くわえて火を点けた。
溜め息を吐くように吐き出した煙が‥‥僕の視界を白に染めた。
「お姫様なんて、本当にいるのかねえ‥‥」
「あははっ、女のコは白馬の騎上、男のコはお姫様。お互いそんなこと言う歳でもないじゃないですか」
「いたとしても、本当に『怪物』に囚われているのかどうなのか‥‥」
となえはそれきり、ムッツリと黙り込んでしまった。
歳の話をしたのが気に障ったのだろうか。だとしたら大人気ないことだ。
ともあれ、こんなくだらない話にこれ以上付き合うこともないだろう。
マリオ? マリオがどうしたっていうんだ? だいたい…。
ああ、そうか‥‥。
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